正門研一氏がイタリアで行われた「第7回国際行進曲作曲コンクール」で総合1位を獲得!特別インタビュー!




 

 


「Amici della Musica」協会のHPより

作曲家の正門研一氏が、2023年6月にイタリアで行われた「第7回国際行進曲作曲コンクール」で総合1位を獲得されました。

コンクールの主催は「アッルミエーレ”Amici della Musica”協会」「アッルミエーレ自治当局」「スコメーニャ音楽出版」です。

前回の「第6回国際行進曲作曲コンクール」に続けての入賞、そしてなんといっても1位!

正門研一氏へのインタビューを、主催者からの提供写真とともにお届けします。


■前回の「第6回国際行進曲作曲コンクール」(2位)に続いての応募、そして今回は「総合1位」となりました。まず、今の率直なお気持ちをお聞かせ頂ければと思います。

もちろん、前回以上の嬉しさを感じています。このコンクールはイタリアの吹奏楽の作曲コンクールでも最も参加者が多いそうで、そのようなコンクールで第1位をいただけたこと、そして、このコンクールの創設者であるロッサーノ・カルディナーリ氏(2020年没)の名前を冠したトロフィを受賞したことを本当に名誉に思います。残念ながら今回も現地に足を運ぶことができず、zoomを通して本選の模様を視聴していたのですが、表彰式終了後、主催者である「Amici della Musica」協会のプレジデント、ステファニア・カミレッティさんが日本語で(確か「こんにちは」だったと記憶しています)何度も呼びかけてくださったのは嬉しかったですね。私は「Grazie」と返すのが精一杯でしたけど。他のファイナリストの皆さんをはじめ多くの方々からメッセージをいただきました。

今年は協会の設立50周年にあたるそうでが、私自身にとってもいくつかの「節目」を迎えた年でもあります。その意味でもこの入賞は特に感慨深いものになりました。

もうひとつ、前回は私がヨーロッパ圏外初の参加者だったのですが、今回は日本から数名応募があったようです。締め切りを前に2名の方からお問合せいただき、実際応募なさったようです。日本からの参加者が増えたこと、コンサート・マーチ部門(カテゴリーA)で馬渕耀平さん(日本大学芸術学部在学中)がファイナリストに選出されたことも嬉しかったです。

コンクールの芸術監督マルコ・ソマドッシ氏(のフェイスブック)によると、私が応募したカテゴリーAは作品の水準が非常に高く、ファイナリスト5作品を選出するのが本当に難しかったそうです。その投稿を目にしていたこともあり、本選で自作を聴くよりも「ファイナリスト選出」の通知を受ける前の方が気分的にも落ち着かない状態にあったのは確かです。

 


(左より)マルコ・ソマドッシ氏(コンクール芸術監督・審査委員長)/ステファニア・カミレッティ氏(協会プレジデント)/レオナルド・ラゼーラ・イングロッソ氏 (審査員)/ケヴィン・ホーベン氏(審査員)/マヌエル・パリアリーニ氏(Amici della Musica吹奏楽団指揮者)

 

■前回同様デジタル音源再生による審査だと伺っています。今回はご自身でもあまり本選の状況をじっくり聴けなかったとのことですが、全体の印象としてはいかがでしたか?

今回は、パレード・マーチ部門(カテゴリーB)でマルタのアンソニー・カミレリ氏(父)とルネ・カミレリ氏(息子)が同時にファイナリストに選出、馬渕耀平さんが最年少(19歳)でファイナリスト選出、前回カテゴリーB第1位のヴィト・デリア氏(イタリア)がカテゴリーAでファイナリスト、など話題豊富だったのではないかと思っています。
前回に続きデジタル音源の再生による審査でした。異論はあるかもしれませんが、各作品のクオリティを公平に保つ意味では「あり」かもしれません。デジタル音源を制作しているのはコンクールを共催するスコメーニャ音楽出版、ここの編集者は皆さん作編曲家として第一線で活躍されているので不安はありません。もっとも、譜面上、デジタル音源上のクオリティが実演でそのまま再現されるとは限りません。その点も当然考慮されての審査だったのだろうと思っています。審査員のメンバーを見れば、そして、「この作品が誰の作品か」だけでなくタイトルさえも知らされない状態で審査される点からも、非常に信頼できるものであると考えます。

本選の審査は、カテゴリーBのファイナリスト5作品から始まり、休憩を挟んでカテゴリーAの5作品という順で進められました。自分の曲が何番目に披露されるかは知らされていませんので、(前回もそうでしたが)イヤな緊張感が…。馬渕さんもzoomでの参加でしたので(他に、カテゴリーAで第2位になったイタリアのダリオ・ボルトラート氏も)、チャットしながら「鑑賞」していました。
確かに、通信状況等の要因もあり各曲をじっくり聴く、という感じではありませんでしたが、前回同様ヨーロッパの皆さんの行進曲に対する考え方、拘りのようなものは感じ取ることができました。
ソマドッシ氏の、「コンサート・マーチ部門における並外れた芸術性と、パレード・マーチ部門における明確で興味深い作曲の機能性」という講評が全てを表していると思います。

 


審査の様子

 

■前回応募しようとしていた「シャイニング・ソウル3」での受賞となりましたね。あらためて今回「シャイニング・ソウル3」を応募作として選ばれた理由をお伺いできますでしょうか。

昨年8月頃にコンクールの開催が発表されるまでは、今回応募することは難しいと思っていました。前回の『シャイニング・ソウル4』と同程度のグレードの行進曲を新たに作曲することは時間的に厳しかったのです(委嘱作品の締切りなどと日程が重なっていたこともあり)。
しかし、応募要項を見ると、規程が一部変更されていたのです。具体的には、「グレード3.5以下」が「グレード4以下」に、「オプション楽器」の縛りが緩くなった(ピッコロやオーボエなどがオプションでなくなった)などです。
これなら、ホルン4パートを2パートにし、コルネット(オプション)を加え、ユーフォニアムを2パートにするくらいの変更でいける、と思い『シャイニング・ソウル3』での応募を考えました。ただ、締切り日が前回よりも1ヶ月早くなっていたので時間的にはむしろ厳しくなってしまいました。

 

■「シャイニング・ソウル」シリーズは、「4」が前回の同作曲賞で2位となりイタリアのスコメーニャから出版、「2」はGolden Hearts Publicationsから出版されています。「シャイニング・ソウル3」という作品について、あらためてどのような作品なのかお伺いできますでしょうか。

「シャイニング・ソウル」シリーズについては、前回入賞時のインタビューで述べていますので、興味があればお読みいただきたいと思います。
今回入賞した「3」は2013年に作曲していた未発表の作品で、前年に作曲し、2022年にGolden Hearts Publications様から出版していただいた「2」での語法をさらに推し進めたもの、と考えています。両曲とも、序奏と第1マーチに現れる動機がほぼ全曲を支配するのですが、「2」では、トリオの前までである程度の「展開」があり(言い換えると、「第2マーチ」というものがない)、トリオではそれまでにない音素材が現れるのですが、「3」では、トリオが「ソナタ形式における展開部」の様相となります。私の関心は、旋律優位(最近の吹奏楽コンクール課題曲に多いですよね)でない行進曲、というものでした。そして、既存の行進曲のフォーマットを使用しながらも構築性を追求することを、「2」「3」における個人的なテーマとしたのです。試行錯誤の末辿り着いたのが、ソナタ(規模的にはソナチネと言った方がいいでしょうか…)形式を応用することでした。すなわち、序奏→第1マーチ→第2マーチ(→第1マーチ)→トリオ(→再現)という一般的なフォーマットではなく、序奏→提示部(第1マーチ→第2マーチ→第1マーチ)→展開部→再現部という形で構成したのが「3」なのです。
具体的には、

序奏
提示部
 第1マーチ(繰り返し)
  ブリッジ1
 第2マーチ(短め)
  ブリッジ2(序奏と第1マーチの動機)
 第1マーチ
展開部
再現部
 第2マーチ
  ブリッジ2
 第1マーチ
コーダ

となっています。

こうした構成(構造)を導き出すまでにいくつかの伏線があったことにも触れておきましょう。
そのひとつ。主部とトリオを共通の音素材で作りたいという思いがありました。実は、拙作『エンブレムズ』(1999年度吹奏楽コンクール課題曲)がそうなのです(このWind Band Press様へ寄稿したコラム「なぜスコアを買って勉強した方がいいの? 作曲家・指揮者:正門研一氏が語るスコアの活用と向き合い方」でも少し触れています)。
そして、『エンブレムズ』をそのように作曲するきっかけとなったのは、エルガーの『威風堂々第一番』です(こちらも、上記コラムの「その4」で触れています)。私にとっては、行進曲を作曲する原点に立ち帰る意味もありました。
ふたつ目の伏線。随分前にホルン奏者で大分県立芸術文化短期大学教授の清水万敬先生と会話する中で、「マーチはトリオの後戻ってきてくれた方がいいな」という話があり、そのことがずっと心に残っていたことがあります。トリオの後第1マーチだけが再現される、という曲は最近よくありますし、私にも確かにあります。また、「トリオの後戻る」スタイルにしても、トリオ内で一度物語を終止させてダ・カーポするというものが多いですよね。私は、「ただ戻る」というスタイルにはしたくなかったのです。

まだまだお話しできることはあるのですが、間もなくスコメーニャ音楽出版から楽譜が出る予定ですので、楽譜を手にし、演奏をしていただく機会が皆さまにあれば、お話ししたいと思います。
(WBP Plus様でお取り寄せができるのではないかと思います。)

 

■日本からは、馬渕耀平さんも「特別賞」を受賞されていますね。馬渕耀平さんの作品をお聴きになられていれば、その印象などお伺いできますでしょうか。

馬渕さんが受賞された「特別賞」は、前回にはなかった賞です。これには、「Amici della Musica吹奏楽団の音楽家による」と記されており、楽団が「演奏したい作品」という視点で選ばれたものと私は理解しています。それだけに、馬渕さんにとっては意味ある受賞だったのではないかと思います。
前述の通り、馬渕さんとはチャットしながら本選の模様を視聴していました。
拙作がカテゴリーAの3番目に披露され、次が馬渕さんの『勇者へのマイルストーン』でした。曲が始まるや「これが私の作品です」と知らせてくださいましたので、私は直ぐ様「爽やか!!」と率直な印象を返信しました。馬渕さんの意図を汲み取れているのかどうかは分かりませんが…。
馬渕さんは現在19歳ですが、吹奏楽だけでもすでにいくつか作品があるようです。今回は、私のSNSへの投稿を見たことがきっかけとなり応募をされたとのことですが、何よりも「何らかの形で世に出したい」という馬渕さんの強い思いがあっての受賞ではないか、と思っています(受賞作はコンクールのために作曲したものではなく、自発的に作られていたものだそうです)。吹奏楽に限らず多くのジャンルに対応できる作曲家を目指しているそうで、今後のご活躍を祈るばかりです。

 


Amici della Musica吹奏楽団のメンバー

 

■恒例の質問になりますが、これからの目標や予定されている展開について教えて下さい。

前回のインタビューの繰り返しになるのですが、「いつまでにこうしたい」とか「いつ頃こうなっていたい」といった具体的な計画、ヴィジョンといったものは敢えて定めていません。

作曲に関しては、「その時でないと書けないものを残した」という想いでいますが、見える風景が少し変わってきているもの事実で、これまでとは違ったテイストの作品を作る可能性はあります。もちろん、行進曲も作っていきますよ。
昨年から今年にかけて、国外の方々に楽譜を購入していただいたり演奏していただいたりする機会も増えてきたように感じています。昨年は、ソマドッシ氏が音楽監督を務めるイタリアの若手音楽家向けのミュージックキャンプで『シャイニング・ソウル4』がレパートリーに加えられましたし、昨年夏に広島ウインドオーケストラ(指揮:下野竜也氏)に初演していただいた『Toward the Blue』(スコメーニャ社刊)は6月に再演されただけでなく、今年に入ってからはアメリカでいくつかの団体によって演奏されています。また、今年3月に大分で初演されたポップス系の作品『BE COOL!』は早くも5月にアメリカの大規模なカンファレンス(ACB 2023)で紹介されましたし、この秋にはピアノ三重奏曲『巡礼:春』(Golden Hearts Publications刊)がスイスで演奏されるかもしれない、という話もあります。このように海外での動きも出てきましたので、国内だけではなく、常に海外にも目を向けておきたいと考えています。
そしてバンドの指揮、指導に関しても、数は決して多くはないのですが、比較的規模の大きなコンサートで指揮する機会をいただくなどしています。近いところでは、10月7日(土)に九州管楽合奏団の「Musical Meets Wind Orchestra」を指揮することになっています。一昨年から開催されており、元劇団四季のメンバーを中心に構成された歌手陣や気鋭の若手ダンサー陣をフィーチャーしたコンサートです。私は毎回アレンジャーとして関わっていましたが、今回はアレンジと指揮で関わらせていただきます。

 

指揮活動は、作編曲の活動あってのものと思ってはいるのですが、もう少し幅を広げてしていきたいという想いはあります。いずれは、このコンクールをきっかけに知り合ったイタリアやヨーロッパの作曲家たちを紹介できる機会を探りたいと思っていますし、イタリアと日本の吹奏楽を何らかの形でつなぐことができないものか、と思っています。また、若い世代の方々(に限りませんが)へこれまでの経験などを積極的に還元、発信していくこともやっていきたいですね。

上述したように、今年は私にとっていろいろと「節目」にあたる年で、いろいろと思うところもあったのですが、コンクールでの受賞に加え、違った風景が見えてきたこともあり、私自身も今後の展開を楽しみにしています。


インタビューは以上です。正門さん、ありがとうございました!

コンクールの概要は以下の通りです。

第7回国際行進曲作曲コンクール

【主催】アッルミエーレ”Amici della Musica”協会
アッルミエーレ自治当局
スコメーニャ音楽出版

【後援】Ca.Ri.Civ財団
ラツィオ州

【審査員】ケヴィン・ホーベン氏(作曲家/ベルギー)
レオナルド・ラゼーラ・イングロッソ氏 (指揮者/イタリア)
マルコ・ソマドッシ氏(コンクール芸術監督・審査委員長/作曲家・指揮者/イタリア)

【審査結果】
カテゴリーA(コンサート・マーチ)
第1位:正門研一(日本)
第2位:ダリオ・ボルトラート(イタリア)
特別賞:馬渕耀平(日本)
ファイナリスト パスクアーレ・ヴェネ(イタリア)、ヴィト・デリア(イタリア)

カテゴリーB(パレード・マーチ)
第1位:ルネ・カミレリ(マルタ)
第2位:ギョーム・デトレ(フランス)
特別賞:マッテオ・ダゴスティーノ(イタリア)
ファイナリスト:アンソニー・カミレリ(マルタ)、マルコ・アゴスチネッリ(イタリア)

ロッサーノ・カルディナーリ・トロフィ
正門研一(日本)


入賞盾とロッサーノ・カルディナーリ・トロフィ(中央)

 


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インタビュー、文:梅本周平(Wind Band Press)




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